HOME の中の (> ガイドライン の中の (> 1.補装具費の支給における「重度障害者用意思伝達装置」(制度概要) - 1.3 借受けの対応

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1.3 借受けの対応【新設】

 平成27年12月14日の社会保障審議会障害者部会で取り纏められた報告書において、「補装具については、効果的・効率的な支給に向け、実態の把握を行うとともに、購入を基本とする原則を堅持しつつ、成長に伴って短期間で取り替えなければならない障害児の場合など、個々の状態に応じて、貸与の活用も可能とすることや、医療とも連携した相互支援の体制整備等を進めるべきである。」と明記されたことで、借受けの導入について検討が始まりました。その結果、平成28年5月25日に成立(6月3日公布)した改正障害者総合支援法(平成30年4月1日施行)において、補装具の購入、修理に加え「借受け」という利用者にとって新たな選択肢が加わりました。

※ (公財)テクノエイド協会から発行の「補装具費支給事務ガイドブック平成30年度告示改正対応版」を参考にすると、より理解が深まります。
 同協会のホームページ( http://techno-aids.or.jp/ )の中の「調査研究報告」の中にて、PDF版が公開されていますので、ダウンロードしてご参照ください。

(1)借受けに関する概要

 補装具は、身体の構造や機能を十分に理解したうえで、利用者に適合するように個別に製作されるものであることから、原則は、従来通りの購入であり、その費用を支給するものであるといえます。しかしながら、借受けが適当とされる場合等については、以下の通りとなっています。

【障害者総合支援法】
第七十六条
 市町村は、障害者又は障害児の保護者から申請があった場合において、当該申請に係る障害者等の障害の状態からみて、当該障害者等が補装具の購入、借受け又は修理(以下この条及び次条において「購入等」という。)を必要とする者であると認めるとき(補装具の借受けにあっては、補装具の借受けによることが適当である場合として厚生労働省令で定める場合に限る。)は、当該障害者又は障害児の保護者(以下この条において「補装具費支給対象障害者等」という。)に対し、当該補装具の購入等に要した費用について、補装具費を支給する。 (後略)
【障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律施行規則】(省令)

(平成十八年厚生労働省令第十九号、改正:平成三十年三月二十二日 厚生労働省令三十一号)

第六十五条の七の二
一 身体の成長に伴い、短期間で補装具等の交換が必要であると認められる場合
二 障害の進行により、補装具の短期間の利用が想定される場合
三 補装具の購入に先立ち、複数の補装具等の比較検討が必要であると認められる場合

 これらをうけ、平成30年度は、①義肢、装具、座位保持装置の完成用部品、②重度障害者用意思伝達装置の本体、③歩行器、④座位保持椅子、の4種目が借受けの対象になります。なお、借受け基準にある価格は、月額の上限額です。(開始月・終了月は、日割り計算になります。)

(出展:平成30年3月23日 障発0323第31号「補装具費支給事務取扱指針について」、
最終改正:令和元年9月12日 障発0912第2号)

(2)意思伝達装置における対応

 意思伝達装置(本体)は借受けで利用される可能性が高い種目です。しかし、すべての場合で借受けとなるのではなく、原則は購入で、借受けによることが適当とされる場合には、購入に替えて借受けを選択できることとなります。

 言いかえると、病状の進行が急速でない疾患や障害の場合や、進行性疾患であっても、長期間にわたり継続して本体の利用が見込まれる場合には、借受けではなく、従前通り、購入に要する費用の支給が妥当と思われます。

省令をふまえて検討すると、意思伝達装置の借受けが適当とされる場合は、

  • ① 病状の進行により装置の見直しを伴う支給
  • ② ALS患者に対する早期支給
  • ③ 幼小児における言語獲得状況に応じた装置の見直しを伴う支給

等が考えられます。

 なお、借受けの対象は本体のみであり、入力装置(スイッチ)等は必要な物は購入し、組み合わせていくことになります。借受けを有効に利用することで、進行状況に合わせてタイムリーな機種変更が可能になるなど利用者の利便性につながることが考えられます。そのため、判定においてもより迅速さが求められます。

【借受けの対象について】

① 病状の進行により装置の見直しを伴う支給

 ALSなどの神経筋疾患の場合、障害の進行に合わせて意思伝達装置(本体)の名称・基本構造の変更が必要になる場合があります。併せて使用できる入力装置(スイッチ)の変更も対応していくことになりますが、入力装置(スイッチ)等本体以外の必要な物は購入を組み合わせていくことになります。本体は購入ではなく名称・基本構造の変更も含めて借受けを延長して繋いでいくイメージです。

 また、病状の進行が速く、短期間のうちに使用が困難になる事例も想定されます。借受けの適否の判断にあたっては、主治医から今後の進行の早さなど詳細な情報を得ることが必要になります。

② ALS患者に対する早期支給

 意思伝達装置の導入にあたって有用なのか、使えるのかを実際に見極めるために借受けで使用することも考えられます。購入が前提であれば入力装置(スイッチ)等の付属品を購入で、本体は借受けで進めることも可能ですが、導入段階では購入に至るかが判断できない場合も考えられます。

 貸付業者、他の支援機関がスイッチ等の付属品をデモ機として用意できるかなど、地域によって対応が異なることが予測されることは、今後の課題です。

③ 幼小児における言語獲得状況に応じた装置の見直しを伴う支給

 障害児の場合は、成長に伴う言語発達の状況に合わせて意思伝達装置の機能変更が必要になることがあります。この場合は、障害の進行というより言語の獲得により使用する装置をタイムリーに変更できるように、購入ではなく借受けでの対応が有効であると判断できる事例が対象になります。借受けの適否の判断にあたっては、主治医や言語聴覚士等から詳細な情報を得るなどの連携が必須です。

【借受けの判断とその後の対応について】

 これまで長期間の利用が見込めないという理由で、補装具の申請をためらっていた方、あるいは支給決定に慎重であった自治体には、そのような懸念を払拭できることになります。

 しかし借受けは、更生相談所の直接判定あるいは医師意見書による文書判定により意思伝達装置の必要性が認められることが前提になります。本体は購入より、借受けが適切と判断できる場合、原則1年までの期間で借受け費の支給決定を行います。

 借受けを選択した場合、使用効果をモニタリングし、借受け期間が終了する前に、今後の延長の必要性について判断が求められます。このとき、申請者の身体状況や生活環境の変化に応じて借受けの延長を行うか、購入に至るかを検討することになります。いずれの場合においても、補装具費支給の空白期間ができないようにすることが必要です。もちろん借受け契約期間(決定期間)内に本体の変更が必要になる場合は契約期間(決定期間)終了を待つ必要はありません。

 継続して借受けの対象となる場合においても、購入する場合においても、真に利用できることを確認するとともに、不具合があれば、その改善も必要です。このとき、入力装置(スイッチ)の不適合があれば、交換(修理)申請を行うことになります。借受けの延長を繰り返しながら入力装置(スイッチ)の変更や本体自体の機種変更などが有効な場合もあると考えられます。

【適切な借受けに資する意見書や連携】

① 意見書の在り方

 進行性の神経・筋疾患の場合は、今後の進行予測として、障害の進行状況、1年後にどうなっているかの予測を医学的な立場から明記することが必須です。

 比較的に早期の申請の場合、人工呼吸器を装着している場合、病状の進行がそれほど早くない場合、入力装置(スイッチ)の交換を行うことで長期間(概ね3年程度を目途)の利用が見込まれるとされた場合等は、借受けではなく、従来通りの購入が適当と判断する目安になるといえます。

 意見書作成は、それらの状況もふまえて、主治医(難病指定医)との連携が不可欠です。

② 更生相談所の役割

 文書判定の場合は意見書作成医、中間ユーザ、貸付事業者と連携を図り、より多くの情報を得て、根拠のある判定をすることが重要です。

 特に、児童の意思伝達装置においては、言語発達面の予測から本体の変更が1年程度で必要になる見込みを医学的見地から明記することが重要です。特に、言語発達面においては、言語聴覚士や療育に関わる指導者等とのかかわり方の影響もあるので、多くの情報が必要です。

【体験(デモ)との相違】

 補装具の借受けは、単なるデモ(体験)や短期間のお試しではありません。補装具は、「障害者等の身体に装着することにより、その日常生活において又は就労若しくは就学のために、同一の製品につき長期間にわたり継続して使用されるものであること。」が原則です。つまり、補装具としての意思伝達装置は継続して利用することが見込まれるが、入力装置(スイッチ)同様に、本体の交換が必要になり、交換によって意思伝達装置を長期間利用できるようにすることが、借受けの目的といえます。

 そのため、借受けであっても、先だって、機種候補の選択や利用継続の見込みがあること(使用訓練により、その見込みが得られることを含む)が大切であるともに、申請者の意思により安易な中断や短期間に次々に要求がある場合には、意思伝達装置の必要性に対して疑義が生じるといえます。

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