協会誌最新号Vol.38/ No.2 (通巻130号)
特集「食べることを支援する」

食べることを支援する

表紙データ(PDFファイル)

特集にあたって「食べることを支援する」吉見 佳那子、中川 量晴
「今回の特集では、摂食嚥下リハビリテーションの診療や知見、嚥下機能評価に関する新しい研究、患者や家族への食事支援に対するさまざまな取り組み、当事者の声などを紹介します。多くのリハビリテーションに関わる方が食事支援のあり方について考える一助となれば幸甚です。」

「嚥下障害患者へのリハビリテーションと支援」吉見 佳那子、中川 量晴
「摂食嚥下障害は、生活に必要な3大要素である衣食住のうちの「食」に関わる重要な問題である。そして最近の研究で「衣」や「住」も「食」に関わることが明らかにされつつある。すなわち生活そのものが摂食嚥下障害と密接に関連するといっていいかもしれない。・・・摂食嚥下リハビリテーションのアプローチでは、機能維持・向上を目標とすると同時に、食の楽しみを家族や他の人たちと共有すること、そしてそれぞれの希望や状況をふまえ、患者や家族のQoLも含めた支援を継続することが大切である。」

「摂食嚥下障害 最近の話題を中心に」藤島 一郎
「摂食嚥下障害は急速に発展し新知見も加わっている。全てを網羅することは出来ないが、本稿では筆者が大切と思われる事項を取り上げて解説する。・・・医療やケアで経口摂取が回復不可能であると判断されたときはどう考えればよいのだろうか? たとえば、意思能力のある本人が『死んでもいいから口から食べたい』と言っている時、『本人の願望を尊重することはよいこと』という倫理的価値(自律尊重原則) と、『肺炎を予防し栄養状態を改善することはよいこと』という倫理的価値(善行原則) が対立する。・・・摂食嚥下障害は、人生の最終段階の医療とケアにも関係している。」

「在宅での摂食嚥下の評価とリハビリテーションと地域医療」坂井 謙介
「私は外来診療と在宅診療を比較する際にホーム&アウェイという考え方を念頭に置いている。外来診療では、私たち医療職のホームに患者さんがアウェイに乗り込んでくるのであるが、在宅診療では私たちはまさにアウェイでの診療をしなければならないのである。・・・この二つの要素を摂食嚥下障害の評価とリハビリテーションにも当てはめて考えなければ、患者さん個別の最適な対応を考えることは難しい。またこれらの内容はまだまだエビデンスが不足しており、経験則も多い。今後のエビデンスを期待しつつ、経験も踏まえて外来や病院での対応との違いを明確にしながらお話ししようと思う。」

「近赤外線光を利用した嚥下評価機器の開発」小池 卓二、若松 海門、中川 量晴、吉見 佳那子、西村 吾郎、山田 幸生、丹羽 治樹
「現在のところ、医療現場では誤嚥を検出する方法として、嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査が主に用いられている。しかし、嚥下造影検査はX線被曝の危険性があり、嚥下内視鏡検査は医師による操作が必要であり、マンパワーが不足している状態である。・・・そこで我々は、患者に蛍光剤入りの食物を嚥下させ、体外から蛍光強度を計測することにより、梨状窩に於ける食物残留の有無を評価する蛍光計測法を提案している。・・・これにより安全かつ簡易に食物残留を検出することができれば、誤嚥の危険性を早期に検知することが可能となり、誤嚥の予防が期待できる。」

「摂食嚥下で重要なポジショニングの基本と実践」内田 学
「摂食嚥下機能は、口腔や顔面、咽頭、喉頭に限局された機能と捉えられる事が多いが、実際には食事を摂る際の姿勢などにも影響を受ける多様な運動機能である・・・本稿では、全身の構造と嚥下機能の関連を運動学的に捉え、失われた機能に対する嚥下の代償という考え方ではなく、効果的に嚥下機能を発揮するために骨盤、脊柱、頭頚部を適切な位置に設定するポジショニングとして捉え、事例なども含めて紹介する。」

「摂食嚥下のリハビリテーションで使用する機器」山田 英貴、三原 啓正、吉見 佳那子、中川 量晴
「本稿では神経筋電気刺激と経皮的干渉波電気刺激について概説する。・・・摂食嚥下障害に対する電気刺激療法は未だ十分に普及しているとは言えない。普及していくためには機器の操作性、安全性、費用などを解決することが挙げられる。操作性や安全性が向上すれば機器を使用する医療者も増加すると考える。また費用については、例えば上・下肢のリハビリテーションを対象とする運動量増加機器加算のように価値を付加されると、導入のハードルが下がり、医療現場においてより広く普及していくことに繋がる。」

「楽味(たのしい)は人を笑顔にできる。愉しい食事は人を幸せにしてくれる」加藤 英二
「僕が料理人になって20年の時、くも膜下出血を患い緊急手術をすることになりました。・・・無事に退院して、久しぶりに自分で料理を作り、美味しい食事に笑顔になっている自分に気付きました。美味しい食事が人を笑顔にすることを自らが体感した経験を機に、改めてレストランにご来店くださるお客様のことについて、より考える様になりました。・・・摂食嚥下障害という、飲込みが難しくなってしまう症状を患い、美味しい食事を食べたいけど、食べられなくて困っている方が沢山いることを知って、初めて嚥下調整食を食べさせて頂いた際に、このテクスチャーなら僕にも作れると思い、嚥下フレンチ(スラージュ) を提供することになりました。」

「もぐもぐはそれぞれ。食の楽しみ方もそれぞれ。」加藤 さくら
「摂食嚥下障害の子どもをもつ親たちが立ち上げたコミュニティ『スナック都ろ美(とろみ)』は、「子どもの摂食嚥下障害に関する情報が少ない、気軽に情報共有ができる場がほしい」「おいしく食べたい、楽をしたい!それが叶う商品やサービスがほしい。」といった当事者のニーズをもとに生まれました。毎日やってくるお食事の時間を楽しく、そして、食を共にし、美味しいを共有することで家族がコミュニケーションをとる時間を大切にしたい親御さんたちがスナック都ろ美に続々と入店しています。」

「栄養と嗜好と食品機能性のクロストーク」西田 明子
「管理栄養士は各職種の評価を併存疾患との兼ね合いも考え、【実際の食事に落とし込む役割】と患者の食嗜好、食事・食品の特徴を【多職種へ伝える役割】を担うと考える。食材や食品、栄養成分の特徴を摂食嚥下等の評価にすり合わせられるのが食支援における管理栄養士の得意とするところだ。・・・摂食嚥下リハビリテーションにかかわり感ずるところは、食事は食餌ではないということを医療者、介護者は認識すべきである。幸福をもたらすはずの食の記憶を、苦痛という記憶に塗り替えられないよう、多職種のみならず、ご本人、ご家族から学ばなければいけない。」

特集

特集にあたって 「食べることを支援する」 (P53)
  • 吉見 佳那子、 中川 量晴
  • J-STAGE
特集 嚥下障害患者へのリハビリテーションと支援(P54)
  • 吉見 佳那子、 中川 量晴
  • J-STAGE
特集 摂食嚥下障害 最近の話題を中心に(P58)
  • 藤島 一郎
  • J-STAGE
特集 在宅での摂食嚥下の評価とリハビリテーション と 地域医療(P62)
  • 坂井 謙介
  • J-STAGE
特集 近赤外蛍光を利用した嚥下評価機器の開発(P68)
  • 小池 卓二、 若松 海門、 中川 量晴、 吉見 佳那子、 西村 吾朗、 山田 幸生、 丹羽 治樹
  • J-STAGE
特集 摂食嚥下で重要なポジショニングの基本と実践(P72)
  • 内田  学
  • J-STAGE
特集 摂食嚥下のリハビリテーションで使用する機器(P78)
  • 山田 英貴、 三原 啓正、 吉見 佳那子、 中川 量晴
  • J-STAGE
特集 楽味(たのしい)は人を笑顔にできる。 愉しい食事は人を幸せにしてくれる。(P83)
  • 加藤 英二
  • J-STAGE
特集 もぐもぐはそれぞれ。 食の楽しみ方もそれぞれ。(P86)
  • 加藤 さくら
  • J-STAGE
特集 栄養と嗜好と食品機能性のクロストーク (P90)
  • 西田 明子
  • J-STAGE

研究論文

研究論文 自主的な音声障害のリハビリテーションの継続を可能とするための  IoT クラウドシステムの開発(P95)
  • 川村 直子、 北村 達也
  • J-STAGE
研究論文 障害者支援施設における車いす使用入所者の座位保持困難事象の現状と課題(P105)
  • 雑賀 昭登、 出口 弦舞
  • J-STAGE

研究報告

研究報告 HMD を用いた近位・遠位空間の半側空間無視を評価するシステムの開発(P114)
  • 津田 貴大、 齋藤 幸江、 新谷  純、 小越 咲子、 小林 康孝、 小越 康宏
  • J-STAGE

技術・開発報告

研究報告 支援機器の開発過程におけるモニター評価の方法に関する海外先行事例の調査(P125)
  • 白銀  暁、 中村 美緒
  • J-STAGE
報告 第3回リハ工・ミライアッセンブリーに参加して(P131)
  • 加藤 有香
  • 報告
報告 障害者自立支援機器 ニーズ・シーズマッチング交流会 2022(P132)
  • 辻村 和見
  • 報告
報告 第49回大阪市障がい者スキー教室に参加して(P134)
  • 岡田 裕生
  • 報告
報告 書評・芸術評 ミシェル・ペトルチアーニのペダル(P135)
  • 石濱 裕規
  • 報告
J-stageリハビリテーション・エンジニアリング誌