協会誌最新号Vol.38/ No.3 (通巻131号)
特集「可能性を広げる電動車椅子 〜多職種で支える車椅子利用者の暮らし〜」

可能性を広げる電動車椅子 〜多職種で支える車椅子利用者の暮らし〜

表紙データ(PDFファイル)

特集にあたって
可能性を広げる電動車椅子〜多職種で支える車椅子利用者の暮らし〜 廣島 拓也
本特集では、医師、当事者、事業者、エンジニア、作業療法士、理学療法士といった様々な立場の方にご執筆いただきました。車椅子利用者がどのように生活し、様々な職種の方が専門性を活かし、どのようにその生活を支えているのかがわかると思います。本特集を通してご覧いただくことで、これまで知り得なかった電動車椅子との関わり方や知見を多く知ることができると思います。本特集をきっかけに、多くの職種についての理解が深まり、電動車椅子利用者の暮らしを支える多職種連携の輪が広がることを期待しています。

電動車椅子選定に必要な機能要件について 桂 律也
今回のテーマである「電動車椅子選定に必要な機能要件」とはユーザー側の身体機能要件であり、ICFの「移動」という生活機能を構成する個人因子である。身体機能障害の種類や程度に関わらず、様々な「移動」を確実にするためには、環境因子としての福祉用具の活用や環境整備について考えていくのがリハビリテーション工学の立場である。電動車椅子選定に必要な身体要件を必要としているのは、支払機関(基金)であり、わが国では社会保障制度の中で公的給付・貸与について身体要件が設けられている。今回は、わが国の電動車椅子給付・貸与の制度上の要件について解説し、その課題を述べていくことにする。

電動車椅子ユーザーの家屋環境設定の実際 松本 琢麿
近年、家族の介護力低下や介護人材の不足が叫ばれるなか、高齢者や障害児者が住まいで暮らすためには生活自立度を維持向上し、介護負担を軽減させるような環境調整が必要となる。電動車椅子等の福祉用具を適切に利用し、必要な住宅改修を行い、日常生活や社会参加を促す「リハ専門職」が地域包括ケアに貢献できる人材として注目されている。

電動車椅子ユーザーの社会的障壁に対する工夫 竹田 敦史
高校卒業後、「障害福祉」についてほとんど無知であった私は、入所施設にいたころに初めて「電動」の車椅子を知ることになった。私の「脚」代わりである電動車椅子との出会いによって、人生は大きく変わった。何よりも自分の心の中にあった「社会に出る不安」という障壁を乗り越え、人として生きていくという活力と勇気をもたらしてくれたのは、電動車椅子であることに間違いはない。 周りから自立生活や就労を無理だと言われ続け、「障害者」としての生き方を諭されても、諦めずに「自分らしく生きる」道を選択することができたことで、自分のエンパワメントを閉ざさずにいられている。

高齢者の電動車椅子選定の実際 片石 任
電動車椅子全般に渡り高い知識と技術力と持ち合わせ維持するのは簡単ではないからである。良い意味で「電動車椅子は任せてください。」とプライドを持ちたいものである。「レンタル品だから何かあったら入れ替えればいい」、などと考えず、トラブルをしっかり捉え、「修理」または「調整」あるいは「交換」するかをしっかり考えられることが大切である。単に用具提供をするだけでなく、ご利用者さまの生活の一部を任されていることに他ならない自覚を持っていかなければ、と感じている。

電動車椅子作製にまつわる実例―判定困難事例― 樫本 修
電動車椅子の支給には身体障害者更生相談所(以下更生相談所)での判定が必要とされている。中間ユーザーとして支援するに当たり、支給制度のことを十分に理解することが判定困難事例を生じさせないことに繋がる。支給の適否を判定する更生相談所、補装具費の支給決定をする市町村の行政側に対象者の障害特性、住環境、社会的理由など電動車椅子の必要性につき、より多くの情報を提供することで判定が容易になり、判定困難事例は生じなくなる。本稿が電動車椅子支給の円滑化、障害者の自立の支援の一助となることを期待したい。

電動車椅子製作にまつわる実例―判定困難事例― 斎藤 省
また少子高齢化により労働人口の減少も大きな課題であるが、反対に働きたい障がい者や高齢者も多く存在する。障害者雇用率達成のハードル(図6)を抱えている企業にとっても、上半身は普通である脊髄損傷の方等は取り合いになる程である。しかし重度の障がいがある方は自分の車椅子で働ける場は少ない。知的でも精神でも、身体障害でも働ける車椅子があれば障害者の採用も広がるのではないだろうか。 それは働く当事者にとっても社会と交流し、役に立っている感覚は生きるモチベーションにもなる。このように、様々な就労に特化した電動車椅子の開発も待たれているのではないだろうか。

電動車椅子の適合実現に向けてのチェックポイント 北野 義明
電動車椅子は生活に密着した用具であり、まさにユーザーと一心同体と言え、どのような電動車椅子を利用するかによって、生活、そして人生が大きく変わる。そのため、適合検討にあたって、身体機能から教科書的に考えるのではなく、ユーザーのADLの状況や生活サイクル、生活環境、行っている活動と行いたい活動、そして人生観までを含めた生活や活動のイメージを共有し、「どのような生活の実現のため、いつどこでどのように活用するのか」をユーザーとともに考えることが重要となる。そのうえで、身体特性や利用環境と照らし合わせ、姿勢・移動・移乗といった車椅子の基本機能別に条件を整理していくと考えやすい。

小児の電動車いす移動を獲得するための電動移動機器 横山 美佐子
2020年に発表された移動に制限のある5歳以下の乳幼児に対する、参加と積極的な発達を助けるための電動移動機器介入のレビューでは22)、電動移動機器の導入が子どもの運動と移動にプラスの影響を与えるという強い支持が得られた。子どもの参加、遊び、社会的相互作用への影響、事故や痛みといった安全性の結果への影響については、中程度の支持が得られた。子ども、器具、環境の「フィット感」が重要であり、子どもの自立、自由、自己表現に関連する成果も重要であることがわかった。すなわち、今までは「目的地に焦点を当てた移動」であったが「移動を獲得するのための移動」に焦点を当てるべきであるのではとこのレビューでは締めくくっている。

特集

特集にあたって 特集にあたって 「可能性を広げる電動車椅子 〜多職種で支える車椅子利用者の暮らし〜」(P137)
  • 廣島 拓也
  • J-STAGE
特集 電動車椅子選定に必要な機能要件について(P138)
  • 桂 律也
  • J-STAGE
特集 電動車椅子ユーザーの家屋環境設定の実際(P142)
  • 松本 琢麿
  • J-STAGE
特集 電動車椅子ユーザーの社会的障壁に対する工夫(P146)
  • 竹田 敦史
  • J-STAGE
特集 高齢者の電動車椅子選定の実際(P150)
  • 片石 任
  • J-STAGE
特集 電動車椅子作製にまつわる実例 ―判定困難事例―(P154)
  • 樫本 修
  • J-STAGE
特集 電動車椅子製作にまつわる実例 ―判定困難事例―(P158)
  • 斎藤 省
  • J-STAGE
特集 電動車椅子の適合実現に向けてのチェックポイント(P163)
  • 北野 義明
  • J-STAGE
特集 小児の電動車いす 移動を獲得するための電動移動機器(P169)
  • 横山 美佐子、 辻 清張、 榎勢 道彦、 高塩 純一
  • J-STAGE

研究論文

研究論文 リクライニング機能を有する車椅子使用時の  殿部ずれ力軽減を目的とした姿勢保持部品使用の検討(P174)
  • 永田 裕恒、 小原 謙一、 藤田 大介
  • J-STAGE
研究論文 シルバーカーと歩行車の方向転換動作分析  〜補助車と体幹の動きの関係、上肢の動きに着目して〜(P181)
  • 山中 梨央、 石井 慎一郎、 櫻井 好美、 山本 澄子
  • J-STAGE
報告 第10回合同シンポジウムに参加して(P188)
  • 片山 浩大
  • 報告
報告 キッズフェスタ2023に参加して(P190)
  • 山内 亜紗美
  • 報告
報告 バリアフリー2023への参加報告(P191)
  • 河合 俊宏
  • 報告
報告 書評・芸術評 映画「500ページの夢の束(Please stand by)」について ―自閉症スペクトラムの障害を持つ方のライフタスク(発達課題)にうなずく―(P192)
  • 木澤 健司
  • 報告
J-stageリハビリテーション・エンジニアリング誌