協会誌最新号Vol.38/ No.4 (通巻132号)
特集「入浴ケアの可能性」

入浴ケアの可能性

表紙データ(PDFファイル)

特集にあたって
「入浴ケアの可能性」 大泉 えり
 私は「7分の7」7日分の7日、毎日おふろに入りたいと思えば入れる支援体制、環境があるかどうかが、その人の人生が自由で豊かかのバロメーターではないか、と考えるようになりました。『リハビリテーション』という言葉の語源に遡れば、身体的にも心理的にも“人生を手元に取り戻す”ための支援の一つとして、今一度入浴ケアに着目していただければと思い、本特集を企画いたしました。入浴に関わる方々の熱い想いに触れる時、いつもそこにあるのは、“暮らしへのまなざし”です。

総論:お風呂は、暮らしと共に、人生と共に 〜在宅で安全・安心にお風呂を楽しむために〜 橋 昭彦
 私たちが生まれた時に、最初に受ける生活支援行為、それは、授乳でも、おむつ交換でもありません。救命処置が必要な場合を除き、生まれた赤ちゃんが最初に受ける生活支援行為は、産湯=「お風呂」です。そして、人生の最期、亡くなった後にお風呂に入れることを、「湯かん」 と呼びます。お風呂は、私たちの人生と共にあるのです。  入浴にはさまざまな健康効果があると言われていますが、生命の危機があり得ることを知っておく必要があります。体調さえよければ、「ひと」と、「もの」の工夫をすれば、医療的ケアが必要な人や、重度障害児者も、お風呂に入ることができます。 ゆったりまったりとお風呂に入る権利は、誰にでも保障されるべきだと、筆者は思っています。

「お風呂ネット湯らりん」®の開発・商品化の道のり 〜Tくんからバトンを受け取った訪問看護師の立場から〜 的場 千賀子
 松野社長が「どんな使い方をしても安全なもの」、「溺れる」と繰り返し言われることに対し、私は「いざというときのために手は絶対に離さない」、「溺れるのを防ぐための安心ネット」と言い、いつも話がかみ合わなかったことが、それは私なりに安全対策を考えたつもりになっていたが、松野社長の立場になっていなかったことが見えてきた。そして、松野社長が私の希望に沿って懸命に考え、どうにかして作ろうとしてくださっている温かい思いが感じられてくるとともに、自分の思いやアイデアを一方的に伝えていた自分の姿が見えてきて、恥ずかしく申し訳ない気持ちになった。

訪問入浴の実際と制度について 〜入浴ケアの可能性〜 有村 聡
 最後となった訪問入浴の日、ご本人の発語はなく、うつろな表情であったが、お湯に浸かると表情が和らぎ穏やかなお顔になった。入浴後、ドクター立ち合いのもと意識が薄れていく中、Cさんはご逝去された。ご家族は涙を浮かべながら、「今まで本当にありがとう。」と言い、その表情からは後悔などなく、どこかやりきった様子さえ見受けられた。

クリアバススケール「なんきろう」の開発秘話と製品について 川合 英司
 試作を始めて一番の課題となったのは製品の重さであった。また、水の張った浴槽と利用者の体重を合わせて300キロ以上の荷重に耐えるようにロードセルセンサー(荷重を検出し、それを電気信号に変換するセンサー)の仕様・性能の検討など、何度もやり直し、いくつも試作機を作っては消えていき大変厳しい状況になった上に開発費用もどんどん膨らんでいく一方であった。

駒場苑の個浴の取組み 〜介護施設運営の立場から〜 坂野 悠己
 普通のお風呂だと慣れない動作がないため、恐怖を感じる場面が少なく、さらに認知症がかなり進んでいても、不思議と習慣で体が覚えていて、桶を使用して自分でお湯をかけ始めたり、洗体タオルを渡すとご自分で洗いだしたりと、こちらが感動する事が多々起こります。お風呂はそもそも心身のリラックスのために入るものでもあるため、それが逆に恐怖心を起こす場になってしまっては本末転倒です。

四肢麻痺者のための入浴とリフトの有効活用 金子 寿
 現在はリフトを利用して週2回の入浴を実施していますが、入浴して3〜4日も経つと頭皮の痒みを感じるようになり、自分の手で痒みのある箇所を掻くことも出来ないため、それも大きなストレスの原因へと繋がってしまいます。また、好みの入浴剤(夏はミント、冬はゆずの香りなど)を入れて湯船に浸かることで、身体の疲れだけでなく、心理的なリフレッシュ効果も得られます。気持ちが良すぎて長湯をしてしまい、介助者からのぼせないうちに湯船から上がることを促されてしまうこともしばしばあります。

介護旅行における温泉チャレンジ お風呂から生まれる物語 堤 玲子
 お客様と観光・旅行をする中で、一番多いのが「湯船に浸かりたい」という希望です。「せっかく鹿児島においでなのですから、大浴場の温泉にチャレンジしませんか?」とお声をかけて、「介護施設では、ほとんどシャワー浴なのに」と驚かれることもあります。 温泉を出たあとは、からだが軽いと、乗ってきた車椅子に、荷物をのせて、おしてくださるのが、ルーティンとなりました(図12)。

かがやきキャンプの取り組みと水中リハビリテーションの実践について 〜セラピストの立場から〜 藪本 保
 四肢の動きだけでなく、よりダイナミックな姿勢変化は前庭系の発達を促す可能性があり、姿勢変化の際に生じる粘性抵抗は固有感覚、水流は皮膚感覚を同時に刺激する。水中リハビリでは多様かつ連続的な刺激を全身的に経験できるため、重症児にとって獲得が困難とされる身体認識(ボディーイメージ)を高める効果が期待できる。

特集

特集にあたって 「入浴ケアの可能性」(P195)
  • 大泉 えり
  • J-STAGE
特集 総論:お風呂は、暮らしと共に、人生と共に  〜在宅で安全・安心にお風呂を楽しむために〜(P196)
  • 橋 昭彦
  • J-STAGE
特集 「お風呂ネット湯らりん」® の開発・商品化の道のり  〜 T くんからバトンを受け取った訪問看護師の立場から〜(P201)
  • 的場 千賀子
  • J-STAGE
特集 訪問入浴の実際と制度について 〜入浴ケアの可能性〜(P206)
  • 有村 聡
  • J-STAGE
特集 クリアバススケール「なんきろう」の開発秘話と製品について(P212)
  • 川合 英司
  • J-STAGE
特集 駒場苑の個浴の取組み 〜介護施設運営の立場から〜(P215)
  • 坂野 悠己
  • J-STAGE
特集 四肢麻痺者のための入浴とリフトの有効活用(P218)
  • 金子 寿
  • J-STAGE
特集 介護旅行における温泉チャレンジ お風呂から生まれる物語(P222)
  • 堤 玲子
  • J-STAGE
特集 かがやきキャンプの取り組みと水中リハビリテーションの実践について  〜セラピストの立場から〜(P225)
  • 藪本 保
  • J-STAGE
報告 九州支部活動参加報告 「TOTO ミュージアム見学会及び意見交換会」(P228)
  • 天米 穂
  • 報告
報告 プレカンファレンスに参加してみて(P229)
  • 菊谷 櫂
  • 報告
報告 SIG姿勢保持講習会 2023 に参加して(P231)
  • 大嶋 志穂
  • 報告
報告 第60回日本リハビリテーション医学会学術集会参加報告書(P233)
  • 片本 隆二
  • 報告
報告 書評・芸術評 映画「500ページの夢の束(Please stand by)」について ―自閉症スペクトラムの障害を持つ方のライフタスク(発達課題)にうなずく―(P192)
  • 木澤 健司
  • 報告
J-stageリハビリテーション・エンジニアリング誌