協会誌最新号Vol.36/ No.2 (通巻122号)
特集「技を伝える〜障害者の生活を支えるための暗黙知とその伝承〜」
「技を伝える〜障害者の生活を支えるための暗黙知とその伝承〜」 硯川潤
人工知能が大流行の昨今ですが、この分野の職人技が代替されるには、もう少し時間がかかりそうです。そこで、現状と課題の認識を目的としました。障害者支援の現場で活躍されている専門職から、機器開発に取り組む研究者まで、多様なバックグラウンドの方々に暗黙知の所在を語って頂いています。
「在宅リハに必要な技術とその習得」 村越妙美
在宅に伺って、訪問先の住宅に入るところから、車いすの置き場、置き方、兄弟児の靴の脱ぎ方等、目に入るものから環境の評価、また、家族とあいさつしたところから家族の健康状態や家族関係、そして、児の顔を観てあいさつしたところから健康状態の評価が始まります。
「『寝かせきり』をなくすために僕らはともに学んできた」 光野有次
子どもたちの抱えているハンディキャップを理解してもらうのには、実際に当事者と家族や介護者らと接する機会が必要で、それを言葉で伝えることは困難だ。そのためには僕らの仕事に同行してもらいながら、実感してもらう必要があった。まさしくOJT(On the Job Training =現任訓練)である。これにはいささか時間が必要で、今も変わらない。
「運動機能障害者向け意思伝達装置の適合支援」 伊藤和幸
当時、各種福祉機器に関するデータベースサイトがあり、その情報をもとに市販されていたスイッチを調べ、操作力や操作に適した身体部位をまとめてデータベース化したのですが、「では具体的にどのスイッチを選択すれば良いか」という解決策を提示するには至りませんでした。操作部位の関連付けをした絞り込みは出来るのですが、電話で話しを聞いて対応していた内容を他の人でもわかるような仕組みに落とし込むことはできなかったのです。
「補装具適合のための人材育成」 高岡徹
個別の患者利用者に適切な補装具を処方するためには、知識だけでは困難、あるいは不十分であり、実際の臨床場面において、先輩医師だけでなく、理学療法士や作業療法士、義肢装具士、さらにはソーシャルワーカーなど他職種の対応を見て学ぶことが有用である。
「専門職との協働で開発するリハビリ支援機器」 森田良文
これは、医療従事者が経験によって培われる「あれ、この方なんか違うぞ」という医療者特有の勘?を具現化する事にもつながる。このように「あれ、変?」と感じる暗黙知を機能障害の微細な変動を採取することで可視化し、それを当人および他医療従事者と共有することができれば問題の認識が具体的となり、それが適切な対策を講じることに繋がると考えている。
「医療機器開発のための技を伝える」 原陽介
この考え方はバイオデザインの“ルール”の典型例である。このルールを守らなかったためにイノベーションの芽が潰れてしまった実例は数多くあるし、自由なアイディア創出を阻むこともある。また時と場合によっては、例外的ケースがあることも経験している。しかしそれらは一通り手法に熟達した後で分析的に評価できるものであって、学習途上では本当の意味で理解するのは難しい。