協会誌最新号Vol.36/ No.3 (通巻123号)
特集「ケア現場の組織づくりのための労働安全衛生 〜ノーリフティングケアの取り組み〜」
「特集にあたって」 福島寿道
「介護する側受ける側、双方において安全で安心な、持ち上げない・抱え上げない・引きずらないケアをノーリフティングケアと言います。ケア(看護・介護)現場の労働環境をよりよくし、現場の組織力をあげる取り組みです。」
「ケア現場の組織づくりのための労働安全衛生〜ノーリフティングケアの取り組み〜」 保田淳子
「ノーリフティングとは、オーストラリア メルボルンにて 1998 年 ANF(Australian Nursing Federation in Victoria)が発表した“人力で持ち上げることを禁止”する「ノーリフティングポリシー」のことである。医療・介護施設における労働災害防止を目的として取り組まれ、2002 年ビクトリア州政府は、「職員の腰痛予防対策の為に導入したノーリフティングポリシーであったが、一番利益があったのは、ケアを受ける側であった。」と発表した。そして、政府や法人にも利益があり、「誰にとってもプラスな取り組み」と報告された 。」
「ケア現場の組織づくりのための労働安全衛生の課題とノーリフティングケアの取り組み」 垰田和史
「ケア職場では、業務に伴う強い身体負荷に起因した腰痛が多発し、労働災害が増加し続けている。国は、2013 年に「職場における腰痛予防対策指針」を改訂し、ケア職場での人力による抱きかかえを原則禁止し、労働安全マネージメント手法を活用した予防対策を示した。リフト等、介護補助具を活用し職員や利用者の安全や快適性を追求するノーリフティングケアは、豪欧等ではケア職場の働き方の標準となっているが、日本のケア職場には馴染みが薄く、その普及が大きな課題となっていた。しかし、ノーリフティングケアに取り組んだ施設や県単位で導入普及に取り組んでいる高知県からは腰痛予防だけでない様々な効果が報告されており、今後、ケア職場で急速に普及することが期待される。」
「ノーリフティングケアと組織づくりのマネジメント」 下元佳子
「私たちの活動を振り返ると、技術を求めていた時期と比較して、マネジメントで普及をしている現在の方が、実践している施設事業所の職員の方々の技術ははるかに高いレベルにあります。そして抱え上げや持ち上げだけでなく、ポジショニングやシーティングなど姿勢管理のレベルも向上していますし、使用している車椅子もノーリフティング取り組み以前と比較すると、調整のできる車椅子が圧倒的に増えているのが現状です。」
「病院におけるノーリフティングケアを用いた労働安全衛生(リフトの導入と使用定着に向けた戦略的取り組み)」 今村純平
「自宅退院(社会復帰)を目指すリハビリテーション病院においては、重度障害患者が自宅に退院しても、家族の介助で移乗できる環境を整えることは重要である。・・・。リフト推進の担い手になる PT・OT 教育から着手した。教育目標は「リフトの使用方法を他者に指導できる」であり、学習ピラミッドを意識し、講義や実演だけでなく、グループワークを通して使用マニュアルや教材 DVD を作成することや看護・介護職向け研修で講師を担うことで知識の定着と指導能力の向上を図った。学習ピラミッドは知識の定着率の根拠が乏しいという批判はあるが、主体的な学習を促す教育手法と言われているアクティブラーニングを実施する上で参考になる考え方である。」
「介護老人保健施設でノーリフティングケアに取り組んで」 小松雅代
「当施設は、高知県東部の中山間地域で入所(超強化型)、通所リハビリテーション、短期入所療養介護
を展開し、在宅復帰目的から人生の終末まで多様なニーズに対応してきました。そうした背景から職員への負担が増す中、従来の労働安全衛生を見直す必要を感じ、2019 年からノーリフティングケアを取り入れています。・・・。現在、重度者フロアでは、二次障害の改善に向けて、NST 委員会と共同し、ポジショニングの見直しを始めています。また、重度の方のトイレ誘導に、排泄用スリングとリフトを使用する試みを始めました。今後もノーリフティングが着実に定着できるよう活動を進めるとともに、こうしたご利用者の個別的な取り組みを進め、「仕事のやりがい」を実感しながら、「当たり前のノーリフティングケア」につなげていけたらと考えています。」
「頸髄損傷者の介護リフトのある日常」 鈴木太
「私にとってはリフトを使って車椅子へ移乗することは日常の行為で、そこをいかにストレスなく行うためには欠かすことのできない福祉機器です。体重が 90キロ以上あることからリフトを使わない生活をしてきませんでしたが、様々な種類のリフトを経験してきました。生活環境、住環境、費用を照らし合わせて、選択してきました。その中で一番気を付けたのは機器を扱うのは私ではなく介助者であるということでした。私の生活の中で身体介助を必要とする場面は、20 代から 60 代までのヘルパー派遣による介護サービスで立っています。」
「移乗機器の活用の考え方」 古田恒輔
「移乗機器 SIG は 1994 年第 9 回リハビリテーション工学カンファレンス(宮城県仙台市)において設立し、第 1 回移乗機器講習会を仙台市内で実施しました。また、2008 年には移乗機器 SIG 会則を制定し、毎年 100 名程度の会員が登録されています。移乗機器 SIG では、設立以来移乗用具の紹介や使い方の解説ばかりでなく、@移乗介助の際の腰痛発生の問題、A介護労働現場(介護・医療職)の環境改善、B在宅介護における移乗機器の導入や導入事例の提示、C移乗関連用具の普及促進にかかる選定や使い方(技術)の普及に努めて参りました。」
「リフトインストラクター資格制度について」 森島勝美、北田篤史
「一般社団法人 日本福祉用具・生活支援用具協会(JASPA)リフト部会・介護リフト普及協会は、名前の通り、介護リフトを利用して看護・介護作業にかかわる人々を腰痛から守り、ご利用者本人が安全で快適な移動・移乗ができる介護環境を実現することを目的として活動しています。リフトを専門とするメーカーや商社が参集し、介護リフトの有効性、重要性を一人でも多くの方々に理解して頂き、安全で正しい使い方を医療、介護の現場に定着し広く普及する活動をしています。その一つとして『リフトインストラクター資格』制度についてご紹介します。」