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A.重度障害者用意思伝達装置の基礎知識
A.1「重度障害者用意思伝達装置」とは

 現在、補装具の本体としては、購入基準においても、2種類の製品群(名称)に大別されています。

  • (1) 意思伝達機能を有するソフトウェアが組み込まれた専用機器(文字等走査入力方式)
  • (2) 生体信号の検出装置と解析装置にて構成されるもの(生体現象方式)

以下に、それぞれ説明します。

(1) 文字等走査入力方式

 基本機能(簡易なもの)の考え方は本編第1章にも記載しましたが、「意思伝達装置の機能を有するソフトウェア」が起動する装置を、外部の操作スイッチ等の入力装置で操作するものといえます。

 ここでいう「意思伝達装置の機能を有するソフトウェア」とは、入力装置を用いての「ひらがな等の文字綴り選択による文章の表示や発声、要求項目やシンボル等の選択による伝言の表示や発声等の機能」を制御するソフトウェアであることが明記されました。

 操作方法としては、「画面に表記された文字や単語が、一定時間間隔で点灯する中から、入力したい文字や単語が点灯した時に、操作スイッチを操作することでその文字や単語を選択する方式(=走査入力方式、あるいは、スキャン入力方式)により、その操作を繰り返すことで言葉を綴る」操作であると考えます。

 この機能を備えた多くの製品は、予めソフトウェアが組み込まれたパソコン・PDAを、専用機器として販売されています。またコミュニケーションに特化した専用機器もあります。利用者のやりたいことと身体状況、周囲のサポート体制を含めて選定することが大切です。

 なお、平成22年の改正では

  • a.意思伝達機能を有するソフトウェアが組み込まれた専用機器(簡易なもの)
  • b.aに環境制御機能が付加されたもの
  • c.aに通信機能が付加されたもの

の3種類の方式に区分されましたが、一定の要件を踏まえて、付加機能が追認されました。平成24年の改正では、環境制御機能が、「①簡易な」ものと「②高度な」ものに細分されました。

a.意思伝達機能を有するソフトウェアが組み込まれた専用機器(簡易なもの)

 「意思伝達機能を有するソフトウェア」は、備考欄にあるような「ひらがな等の文字綴り選択による文章の表示や発声、要求項目やシンボル等の選択による伝言の表示や発声等を行うソフトウェア」と具体化されました。また、基本構造として、「文字盤又はシンボル等の選択による意思の表示等の機能を有する簡易なもの。」という特徴も明示されました。
 パソコンを用いない専用機器である意思伝達装置の場合は、パソコンのような高機能な文章作成や通信機能を有していない反面、コミュニケーション機能に特化されていることから、操作が単純であり機器の苦手な利用者への導入も比較的容易です。また機器の起動・終了も簡単で安定性が高く取り扱いも容易なため、利用者本人、支援者共に導入後の負担も軽減されます。

 対象者例としては、「操作が簡易であるため、複雑な操作が苦手な者、若しくはモバイル使用を希望する者。」とあるように、これまでにパソコンやメールの利用経験がない人や、周囲にパソコンそのもののトラブルに対するサポートを行う人がいない場合には、この方式が有効な場合が多いと考えられます。
 また、外出先で利用したいというニーズが高い場合、ノートパソコンを利用した装置であっても、移動時の利用は故障につながることが危惧されますので、避けるべきといえます。

b.aに環境制御機能が付加されたもの

 aの基本構造の付加機能にあたる通信機能は、備考欄にあるように「機器操作に関する要求項目を、インタフェースを通して機器に送信することで、当該機器を自ら操作することができるソフトウェア」と示されています。

 対象者例としては、「独居等日中の常時対応者(家族や介護者等)が不在などで、家電等の機器操作を必要とする者。」とあります。実際には、テレビのリモコン操作を希望することが一番多いと思われますが、テレビのリモコン操作だけのために、環境制御装置を付加した意思伝達装置が必要という判断にはならないように見極めが必要といえます。
 また、リモコン設定にかかる費用については、補装具費の対象外であり、申請者の自己負担となります。なお、修理基準においては、「遠隔制御装置」となっていますが、学習リモコンのほか、予め、複数社・製品の赤外線信号をプリセットしている方式の赤外線リモコンであっても、同等品と考えることができます。

 平成24年の改正では、環境制御機能が、「①簡易な」ものと「②高度な」ものに細分されましたが、その違いは、テレビ等の1つの機器を操作するもの(①)か、複数の機器を操作するもの(②)となっています。

c.aに通信機能が付加されたもの

 aの基本構造の付加機能にあたる通信機能は、備考欄にあるように「生成した伝言を、メール等を用いて、遠隔地の相手に対して伝達することができる専用ソフトウェア」と示されています。

 対象者例としては、「通信機能を用いて遠隔地の家族等と連絡を取ることが想定される者。」とあります。ですので、目の前にいる家族とのコミュニケーションは持たずに、友人・知人とのメールにしか利用しないという希望の場合、真に、意思伝達装置の付加機能としての通信機能が必要か否かの見極めが必要といえます。
 また、通信機能を用いるためには、電話回線だけでなくインターネット回線の確保という問題もありますが、その手続きや、登録や設定、トラブル時の再設定、および利用にかかる費用については、補装具費の対象外であり、申請者の自己負担となります。

【携帯性と付加機能】

 一般的に「意思伝達」といわれる「意思表出」(=会話)の補助には、制度上の「携帯用会話補助装置」と「重度障害者用意思伝達装置」が含まれます。

 この2つ装置の違いには、「(軽度用)/重度用」という考え方と、「携帯用/(在宅据置用)」という考え方のイメージが持たれていますが、2種類の異なる視点での属性分けがあるため、明確に区分出来ていないのが現状であると考えます。

 この考え方については、以下のように整理しました。

① 携帯性(外出でも利用) ②  据置利用(周辺機器併用)
キー入力
(軽度用)
携帯用会話
補助装置
携帯性に優れて、外出時にも持ち出して利用することも可能 日常生活の会話を中心に利用するため、会話補助機能に加え、プリンタ(代替筆記具)としての機能も含まれる
走査入力・重度用
(A)
重度障害者用
意思伝達装置
(B)   (高度な)環境制御機能や通信機能も付加できることで、生活上の自立(介護負担の軽減)にもつながる

 補装具としての重度障害者用意思伝達装置としては、「②A」型が必須の基本領域であり、利用者のニーズや生活環境により、拡張方向が異なるといえます。

 比較的外出を求める場合は、「①A-②A」型としてパナソニックヘルスケア(株)製の「レッツ・チャット」(現時点では、生産終了)などが対象といえます。これに対して、在宅生活での充実を求める場合は「②A-②B」型として、(株)日立ケーイーシステムズ製の「伝の心」などが対象といえます。
 ここでは、軽度用と重度用の区分けが身体機能によるものでなく、生活環境によるものになっています。つまり、軽度だから携帯用という解釈が、適切な判断ではないと考えます。

 「②B」型に関しては、重度障害者用意思伝達装置としての利用対象者に限ることなく、高位頸髄損傷者等においても、「環境制御装置」としてのニーズがあるものです。しかし、多くの場合は発語機能が残っているため、呼吸気等のスイッチ操作に限らず、音声認識による操作も可能であることが相違点となっています。

 いずれの付加機能を利用するにしても、導入により、家族間のコミュニケーションが少なくなることのないように注意することも大切です。

【付加機能とパソコン操作の関係】

 「b②.高度な環境制御機能が付加されたもの」と「c.通信機能が付加されたもの」は、現状としては、該当機種が同一である場合(同一製品で、両方の機能を実現する場合)もあります。その製品としては、パソコンに組み込んだ機器を要望するケースが多いと思われますが、意思伝達装置が障害者自立支援法(障害者総合支援法)扱いに移行しており、現在の扱いとしては、旧制度の日常生活用具のワードプロセッサの機能としてのパーソナルコンピュータ(パソコン)として給付が可能であったパソコン単独の給付は、パソコンの一般的な普及率を鑑みて、公費で特別に支援することは適切ではありません。よって、利用者が意思伝達装置および付加機能を求めているのか、パソコンを求めているのかについての明確な線引きが身更相には必要となります。

 この機器の中には、付加的機能としてパソコン操作ができる製品もありますが、公費対象は、あくまでも文字生成による意思伝達の部分ですので、パソコン操作に関することでの修理・設定等は、自己負担が原則です。

 また、パソコンを自費購入し、意思伝達装置の機能を有するソフトウェアをインストールして、意思伝達装置として利用することも可能です。現状として申請数が多い製品の一例の「オペレートナビ」などは、特例補装具審査会での議決を経て、特例補装具費の支給(公費負担)することが公正・適切と考えられます。

 例えば、埼玉県・さいたま市などでは、特例補装具審査会で決定し、オペーレートナビソフトウェア・スイッチコネクタ・スイッチのみの申請の場合は、特例補装具審査会に毎回かけることなく、オペレートナビ・スイッチコネクタのみ、本体同等として判定し、スイッチは修理項目から選択することを可能にしています。つまり特例審査会の開催される間隔である最長3ヶ月程度の保留期間も存在しません。

 「ソフトウェアが組み込まれた専用機器」は、ソフト及びハードが一体型の専用機器で、フリーズ等のトラブルが少ないことが大切でありますが、パソコンを利用した装置の場合、連続使用によるフリーズの心配もあります。パソコンのサポートを行うことができる支援者が身近にいない場合には、導入の際に十分に検討する必要があるといえます。

【考慮すべき事項】

 意思伝達装置の専用機器としては、パソコンを認めていないのは、文字生成以外のメールの禁止という主旨ではなく、いろいろな他のアプリケーションソフトを組み込んで不安定になると、必要なときに「意思伝達装置」として機能しない可能性があると考えるためです。
 パソコン操作を前提というのは、他のアプリケーション利用の前提ということであり、装置の安定性でメーカーが責任をもてるかどうかになります。特に、初期設定後に、利用者が容易にオンラインのバージョンアップ等を行ってしまうと、メーカーは、機器使用の実態の把握ができないと考えられます。

 また、メール等の付加機能を含む意思伝達装置以外の機能を必要としない人であれば、目の前にある装置がパソコンであったとしても、意思伝達装置以外には利用せずに、専用機器と扱うことが当然の判断です。
 しかし、それ以上のアプリケーションソフトを利用する場合、もし、意思伝達装置に関する制度がないとしても、パソコンを自費で購入し、利用していくことと考えられます。このとき、本来であれば、そのパソコンのほかに、意思伝達装置の支給を受けることになると、2台の本体を並べて使うことになり、設置場所、使用方法(併用)などの問題から非現実的です。
 この解決方法が、意思伝達機能を有するソフトウェアは、自己の所有のパソコンに組み込み、特例補装具費による支給と考えることが自然な説明になるといえます。

 以下に、文字等走査入力方式の本体と修理項目とを、模式的に示した例と接続イメージ図を示します。
 現在市販されていない製品でも、以下の模式図のどこにあてはまるかを身更相が判断することができれば、適合することが可能です。

本体と修理項目の模式図
意思伝達装置の接続イメージ図

(2) 生体現象方式

 「生体信号の検出装置と解析装置で構成され、生体現象(脳波や脳の血液量等)を利用して「はい・いいえ」を判定するものであること。」と示されています。
 対象者例としては、「筋活動(まばたきや呼気等)による機器操作が困難な者。」とあるように、運動機能(筋活動)によるスイッチ操作ができなくなった人となります。相手の呼びかけに対して反応するため、聴覚に問題がある場合にも、反応できなくなる場合があります。

脳波の利用

 商品としては、(株)テクノスジャパン製の、「MCTOS(マクトス)」シリーズが該当します。
 「はい・いいえ」の判定結果が、電気的に出力されるために、理論的には(1)の文字等走査入力方式の機器の操作スイッチとして組み合わせて、利用することも可能です。ただし生活の場面で本人が本当に利用できるかどうかを身更相が評価することが必要になります。

脳血流の利用

 商品としては、ダブル技研(株)の、「新心語り」が該当します。
 ひとつの質問に対する「はい・いいえ」の判定結果が、画面で表示されるだけなので、周囲の人的対応についての可否の検討も必要になります。

 導入可否の見極めとしては、相反する既知の課題を順に提示して、それぞれの結果がどう出るかの記録をすることが、一助となると考えられます。機器の特性上、必ずしも100%本人の「はい・いいえ」の意思が反映された回答が得られるものではありませんが、同一の質問を繰り返し、答えてもらうことで正答率を上げることも可能であり、質問の方法など、周囲の人的対応も含めて、身更相として導入可能と判断できるようならば、支給(公費負担)も可能です。

 当初に設定する「はい・いいえ」のデータが、以後のコミュニケーション結果に大きく影響するため、初回の設定時には、メーカーに問い合わせを十分にすることが必要です。

(参考情報)
 例えば、埼玉県では試用が必要と判断しているため、平成20年度からは、身更相で備品として整備し、一定期間貸し出すことによって、判定に利用しています。
 埼玉県の判断としては、身更相を支援している福祉工学担当に評価指標は委ねられていまた。

 福祉工学担当では、身更相を支援できる15条指定医でかつ、脳神経内科専門医等と共に、出ているデータの解釈として脳波学的判断と共に、介助者がどれだけ機器試行に関われるかの時間的分析を基としています。

 判定基準に関しては、機器の完成度と、利用者等の期待度との乖離がまだあるため、身更相として十分に説明ができるだけ、機器を十分に理解する必要があります。
 機器の理解・脳波学的検討に関しては、今後とも検討が必要です。

その他の生体信号の利用

 商品としては、サイバーダイン(株)製の、「Cyin福祉用」が該当します。筋活動以外で随意にコントロールできる生体現象(人が身体を動かそうとした際に脳から筋肉へ送られる微弱な生体電位信号)を活用しているとされています。
 実際には、筋活動や、身体を動かした際に生じる筋電の検出でも動作しますので、同一の入力装置として継続的な利用も可能かもしれませんが、妥当性や適用時期については慎重な判断が求められるといえます。

【判定における注意事項】

 人工呼吸器装着に伴う申請の場合も、装着が一時的なものか、長期的(永続的)なものか等の見極めが必要です。
 人工呼吸器も、気管切開を伴うか、そうでないかをしっかりと区別することが必要です。

 (2)に該当する機器を公費負担した場合、(1)に該当する機器を再度申請してきた場合には、身体的機能・病気の進行からして、逆行案件と考えられますので、多くの場合は検討する必然性さえありません。ただし病気に関しての誤診の可能性は払拭できない場合もあるので、特例補装具審査会での審査を経ることが適切と考えます。

 (2)に該当する機器では、病気の指定をしている場合、特にALSについても、大脳の活動の評価は、主治医の意見書に、いわゆる脳の活動についての説明を求めるようにして下さい。脳波の出現がいわゆる脳波学的に困難な場合や、前頭葉障害がある場合などは導入が困難な場合があります。

(3) その他の方式

 具体的には、キーボード代用装置、視線による直接選択式のも等で、一部機種では、副機能として走査入力にも対応しているものもあります。
 これらは、原則として補装具費の購入基準の名称に該当していませんが、利用目的としては、意思伝達であり、補装具費における「重度障害者用意思伝達装置」の種目に該当していると認められる場合には、特例補装具費として支給される場合もあります。

 しかし、特例補装具は、指針において「身体障害者・児の障害の現症、生活環境その他真にやむを得ない事情により、告示に定められた補装具の種目に該当するものであって、別表に定める名称、型式、基本構造等によることができない補装具」されていることから、機器の性能だけでなく、利用者個人の身体機能や生活環境を踏まえた利用目的なども考慮されることになるといえます。

 例えば、以下のような社会活動の有無等が、止むを得ない事情の評価ポイントになると想定されますが、基準内にある「文字等走査入力方式」が使えず「生体現象方式」では、ニーズに合致しないことが第一条件といえます。この状況としては、

  • ・ニーズとして、文書作成(日常会話レベル以上の長文作成)が必要であること。(=生体現象方式では対応できないこと。)
  • ・文字等操作入力方式において必要な入力装置(スイッチ)操作ができないまたは極めて困難であること。
などが考えられます。

 前者の、文書作成(日常会話レベル以上の長文作成)が必要というニーズの考え方としては、単に家庭内のコミュニケーション手段というレベルのみならず、的確な指示を第三者に伝え記録を残すことが必要であるという職業的理由や、その人の立場を踏まえての執筆活動などのような職業的理由の考慮も含まれるべきと考えられます。
 後者の「極めて困難」という状態が意味することは、数回の入力操作が可能であったとしても、文書作成に必要なタイミングを繰り返し維持することができないあるいは著しい負担となり実用レベルにないことを意図しています。 

 そのため、支給(公費負担)を検討する場合には、補装具(意思伝達装置)の枠組みに、無理やり当てはめるだけでなく、他の制度(A.4参照)の利用も含めて検討することが必要といえます。

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