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A.4 重度障害者用意思伝達装置と関連のある機器と制度

 福祉機器・用具の中には、意思伝達装置と類似する機能を持った装置があります。これらの福祉機器・用具と意思伝達装置の相違や特徴と、利用可能な制度は以下のとおりです。

(1)「携帯用会話補助装置」

 「発話及び書字に困難を有する人が、キーボード操作を基本とする携帯性を重視した機器で、文字盤にある文字(キー)を押して(=直接入力方式)、文字綴りで文章の作成や音声で伝える機器」と、「あらかじめ録音した任意の内容を、文字盤にあるシンボル(キー)等を押して、再生や文字表記させる機器」とがあり、後者をボカ(VOCA;Voice Output Communication Aid)と呼ぶことがあります。携帯性を重視した機器の特徴から機器の管理が簡便であり、屋外やショートスティ等においても有効に活用できる機器です。

 旧制度においては、商品の数が少なかったこともあり、携帯用会話補助装置とは「トーキングエイド」を指す時代もありましたが、現在は数が増え、選択できる状況になっています。特に、メーカーの新規参入・開発による「レッツ・チャット」に関しては、携帯用会話補助装置と意思伝達装置の要件を共に満たしているといえます。

 よく障害が軽度の場合が携帯用会話補助装置、重度になれば意思伝達装置という誤解をされる場合がありますが、全く根拠はありません。そのため、どちらの制度での給付が適切かという解釈がわかりにくくさせている事例があります(A.1参照)。以下のように問題点を整理してみました。

「携帯用会話補助装置」
移動中・携帯中(持ち出した時)であっても、安定した動作が保証される
本体上のボタンを操作して、メッセージの入力ができる
「重度障害者用意思伝達装置」
外部の操作スイッチによる操作(ステップ入力またはスキャン入力)で、メッセージの入力ができる

 「レッツ・チャット」は、移動中にも利用でき、本体に組み込まれたスイッチの操作でも、スキャン入力方式により、文字綴りやあらかじめ登録されている内容の、発声と文字表示させる機器です。この点が、両者に該当するといえます。ですので、使用方法や目的について、身更相の判断が必要です。

 制度が異なるとはいえ、「レッツ・チャット」を意思伝達装置の本体として交付された場合には、地域生活支援事業による日常生活用具給付として、これを更に対象とするのは、不適切です。逆の場合も同様に不適切です。

 また、コミュニケーションは、社会的に環境によって左右されるのが一般的です。
 多くの場合は、一種類の意思伝達装置を用いることで、完結するのが実態ではあります。しかしながら、意思伝達装置の利用者のうち、ALSの方の場合に時々次のようなことが求められています。ALSは、知的に障害を受けることが多くの場合はないため、あたかも重度障害者の代表として、いろいろな場所で意見を求められ、また発言することが技術的な支援によっては可能です。

 日々は自宅内でインターネットを駆使して、週一程度では自宅外で、講演等をしている方もいらっしゃいます。頻度問題ではありますが、週一程度の外出時に対応できる意思伝達装置がないのも現実なので、異なる装置であれば、携帯用会話補助装置との併用を認める身更相・市町村があります。

(2)「環境制御装置」

 重度肢体障害者の自立と、介護者の介護負担を軽減する機器として、テレビなどの家庭用電化製品等(周辺機器)を、残存機能に応じたスイッチを用いて、操作することができる機器です。
 あらかじめ環境制御装置に、使用する家庭用電化製品の赤外線を登録、または電源を接続しておき、スイッチ操作にて目的の制御内容を選び、周辺機器を好きな時に操作することができるようになります。

 制御可能な周辺機器の代表的なものとしては、「テレビやビデオ・エアコン等の赤外線式の家電製品、電動リモコンベッド、電動リモコンカーテン、呼び鈴、インターフォン、福祉電話、玄関錠、ページ自動めくり機」などがあります。意思伝達装置をつなぐことも可能です。ただし、機種によっては制御できる周辺機器の制約を受ける環境制御装置もありますので、注意が必要となります。

 上記の周辺機器を制御できる本格的な機器(据え置き型)と、赤外線式の家庭用電化製品のみ制御できる簡易型の2種類があります。また、据え置き型の場合、設置工事が必要となりますので、別途設置工事費が発生します。

 対象となる疾患は主に高位頸髄損傷者(C4レベル)ですが、電化製品の手元リモコンの操作が困難な筋ジストロフィーや脳性まひなどの方にも有効な場合があります。

 環境制御装置は、補装具の種目、購入又は修理に要する費用の額の算定に関する基準には規定されていません。神奈川県・岐阜県・高知県・横浜市・川崎市・東京都千代田区などでは、独自に制度化しています。

 なお最近では、音声認識でリモコン操作ができるスマートスピーカーも多く市販されていますので、肢体不自由であっても発声が可能であれば利用可能です。発声もできずに、意思伝達装置の適用となる場合でも、意思伝達装置の音声をスマートスピーカーに認識させて、家電製品等を操作している人もいます。

(3)「呼び鈴」(呼びベル、ブザー、コール)

 声掛けや鈴などを振って人を呼ぶことが困難な場合、スイッチ操作にて人を呼ぶことができる家庭用の呼びベル(ブザー、コール)です。
 呼び鈴を使用することで介護者が常時そばに待機している必要がなく、介護者の介護負担の軽減や夜間の呼び出しも可能となり、当事者にとってもいつでも呼べるといった安心感が生まれます。

 意思伝達装置の修理基準の項目に「呼び鈴」及び「呼び鈴分岐装置」があり、意思伝達装置の操作が困難・意思伝達装置の必要性がない場合でも、人を呼ぶ手立てとして申請を受けることがあります。しかし、特例補装具費(2.2参照)にての「呼び鈴+スイッチ交換(操作スイッチ)」の支給例もありますが、「呼び鈴と呼び鈴分岐装置」の組み合わせのみの申請は、本体が含まれないと補装具費の対象としないという判断が通常です。

 地域生活支援事業による日常生活用具給付のうち、在宅療養等支援用具や情報・意思疎通支援用具であるとして公費支援を可能にしている市町村もあります。

 病院や施設でのナースコールとして使用を希望する場合、ナースコールと接続する差し込み口が呼び鈴分岐装置の差し込み口の形状が異なるため、使用することが事実上、不可能な状態になっています。加えて、多くの市販機器は、ナースコールシステムに繋がないことを前提に開発されています。改造による連携・接続の対応を安易に業者に依頼することなく、費用負担以前に、製造物責任法(PL法)に基づいて、使用者・病院、施設管理者・業者間での取り決めを十分検討することも重要です。

(4) 市販のパソコン+「情報通信支援用具」

 「Windowsのユーザー補助」や「iOSのアクセシビリティ」等の機能を活用してもパソコン操作が困難な場合に使う、キーボード及びマウス操作の入力支援装置として「視覚障害者向け」と「肢体障害者向け」の機器があり、肢体障害者向けの機器を利用しての会話補助や意思伝達の支援方法もあります。

 スイッチ操作にて全てのパソコン操作を行なえるソフトウェアは、メールや作画などパソコン操作が主たる目的となるため、携帯用会話補助装置と併用して使用していることもあります。

 なお、パソコン本体についての公費支援についての妥当性がなくなってきた現在では、一般に普及している物は個々人負担と考え、機能追加をする部分だけ公費で支援しようという市町村もあるようです。

 地域生活支援事業による日常生活用具給付として、旧制度の日常生活用具の物品を組み合わせる物や、平成13年度より5年間の時限的に実施された障害者情報バリアフリー化支援事業といった制度を継続・一部判断を変えて継承といった形をとっている市町村があります。

 このような給付(公費負担)は、全国的に継続しているわけではないため、実施していない市町村もあります。そのため、各市町村窓口での確認が必要になります。

 特例補装具費(2.2参照)にて「ソフトウェアのみ」+修理基準(A.3参照)にて「操作スイッチ」という同様の構成の支給例もありますが、それぞれ、以下の特徴があります。

  • 日常生活用具の場合、意見書や判定が不要であり、手続きが簡単である。しかし、ALS等の進行性疾患であっても、進行に応じての再給付は不可である。補装具での対象に至っていない頸髄損傷者等は、この制度を利用することになる。
  • 補装具の場合、意見書や判定が必要であるが、ALS等の進行性疾患では進行に併せて交換(再支給)を受けることができる。

(5) 難病患者等日常生活用具給付事業

 障害者自立支援法とは、別の根拠(「難病特別対策推進事業」の1つ)で実施されていた事業であり、ALS等の特定疾患(厚生労働科学研究難治性疾患克服研究事業の対象疾患)の患者が対象でした。

 平成25年4月から障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)に定める障害者及び障害児の対象に難病等が加わり、身体障害者手帳を所持しないために、難病患者等日常生活用具給付事業等を利用していた難病患者も、障害者福祉サービスを利用することになることになりました。そのため本事業は廃止され、障害者総合支援法における補装具・身体障害者の日常生活用具に統合されました。

 なお、この事業の中で「意思伝達装置」の対象者は、「言語機能を喪失した者又は言語機能が著しく低下している筋萎縮性側索硬化症等の神経疾患患者であって、コミュニケーション手段として必要があると認められる者」とされていました。実施主体である市町村によっては、補装具としての対象要件を満たす前(早期支給)では「難病患者等日常生活用具給付事業」で意思伝達装置を支給し、進行により補装具としての対象要件を満たした後から、補装具費(修理費)の支給(1.2参照)を行っているところもありました。

 障害者総合支援法においても、この趣旨を引き継いで、進行性神経筋疾患患者に対しては、判定時の身体状況が必ずしも支給要件に達していない段階であっても、急速な進行により支給要件を満たすことが確実と診断された場合には、早期支給を行うよう配慮する必要とされています。

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